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ままのてこな

真間の手古奈

国枝 史郎

「サンデー毎日」1929(昭和4)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,631 字 · 10 页

青空文庫

……」

三

と、俄に嘲るような、かれた笑声が起こりました。左衛門が笑ったのでございます。

「――われも見つ人にも告げん葛飾の、真間の手児奈の奥津城どころ――お前様にはこの和歌をご存知でしょうな」「はい」

とお蘭は直ぐに申しました。

「二人の殿方に恋せられて、どっちへも靡いて行くことが出来ずに、入水して死なれた憐れに美しい、真間の手児奈という娘の墓を、山辺赤人というお偉い歌人が、詠まれた和歌にございます」

「さよう」

と、左衛門はいいました。

「で、お前様が覚悟どおりに、今のお二人に義理を立てて、入水してお死になされたなら、偉い歌人が憐れがって、名歌を詠まれるかもしれませぬな。……が、そうなるとこの八ツ橋の里に、二つの伝説が出来まして、迷惑のことになりましょう。……お前様のお父上がたった今し方私に話して下された、羽田玄喜の妻の伝説と、そうしてお前様の伝説とがな。……で、私は申しますよ。美しい物語にあくがれるのは、若いお前様の勝手ではあるが、その伝説の真似をして、自分自身に行うことは、この上もないつまらないことだと。……それよりもこの里に残されている、羽田玄喜の妻の伝説を、旨く利用なさいまし。