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めをひらく

眼を開く

夢野 久作

「逓信協会雑誌」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,759 字 · 20 页

青空文庫

ところが、私は今朝から、精神そのものに支配されている精神そのものの偉大崇高さばかりを、眼の前に凝視しつづけて来ていたのだ。

そう気が附くと同時に、私は立っていることが出来なくなった。全身をワナワナガタガタと戦かし、歯の根をカチカチと鳴らしながら、ぐたぐたと雪の中に両膝を突いて坐り込んだ。しっかりと合掌しながら、改めて忠平の死体を見直した。

猟師の吉兵衛老人を初め三人の男も、手に手に被り物を取除けて、頭を垂れて合掌した。

私の背後はるかな峯の頂から、斜めに辷り降りて来たオレンジ色の太陽の光が、忠平の死骸と私たちに流れかかった。

忠平の顔一面に貼り付いていた銀色の氷の粉末が、見る見る溶けて水の小粒となり、露を結んで肌を濡らしつつ流れ落ちた。ちょうど、青ざめた顔が一面に汗をかいているように見えた。

私たちは、こうした忠平の死面に現われる、極めて自然的な現象を、いい知れぬ崇高な奇蹟に直面させられたような気持で、一心に合掌しつつ見下していた。

そのうちに今までヒッソリと閉じて氷結していた忠平の眼が、太陽に照されたせいであろう。ウッスリと開き初めて、永遠の静けさを具象す白眼と黒眼が、なごやかに現われ初め、固い一文字を描いていた唇が心持ほころびて、白い歯並がキラキラと輝き現われた。