轻松读懂日语经典作品
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やのしのとい
矢押の樋
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,468 字 · 29 页
五
「お口に合いましたら、別にお屋敷へお届け致します、娘はこのような事が好きで、いつも手まめに作っておりますから」
「それは忝けないが」と梶之助はにべもなく云った、「こういう美味いものを始終食べつけると、口に奢りがついていけないものだ、邪魔にあがる折々頂ければそれで充分です」
「そう仰有るほどの物でもございませんが」
走って来る人の跫音がしたので、幸兵衛はそう云いかけたまま振返った。……母屋の方から幸太郎が、矢押家の若い家士を導いて来たのである。
「お客さまにお使いでございます」
五
「なにか急な用か、平馬」
「江戸表より急使でござります、方々お捜し申しました、直ぐお帰りを願います」
「兄上からの使者か」
「……はい」若い家士はつと近寄り、ひどく震える声で囁くように云った、「江戸表にて、旦那さま御切腹と……」
「なに! 兄上が御自害」
梶之助の大きな眼が燐のように光った。
直ぐに幸兵衛の許を辞して出た彼は、烈しい炎天の道を夢中で急いだ。……いきなり真向を殴りつけられたような気持である、然し予想しなかった事ではない、出府して行く時の兄の眼が、どんな決意を示していたか梶之助は忘れはしない、兄の気質の隅々まで、熟く知っていた彼は、努めて打消しながら実はこうなる事を惧れていたのである。