轻松读懂日语经典作品
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やのしのとい
矢押の樋
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,468 字 · 29 页
……幸兵衛は次の部屋へ入ったが、直ぐに娘の加世を伴って現われた。娘はよろめくような足取で縁先へ出ると、……盆の上に載せた琥珀の杯を、静かに梶之助の方へ押進めた。
「手作りの杏子の酒でございます」
「……忝ない」
梶之助は手を伸ばして杯を取った。
娘は思詰めたように、睫毛の長いつぶらな眸をあげて、男の顔を見た。梶之助もその眸を見返した。……二人は今日まで、満足には言葉も交わしたことがない。娘に執心で通っているという世評とは凡そ逆に、梶之助は出来るだけ加世の心を無視して来た。けれどそうする気持の底には、制することの苦しい愛情が育っていたのだ。
――いつかは。
いつかは娘を妻と呼ぶ日が来るだろう、そして別にそれは困難なことではないと思っていた、然し、今はもうそれも夢である。
――赦せ、悪いめぐりあわせだった。
梶之助はそう呟きながら、杯を呷って、もういちど娘の眸をひたと覓めた。
「美味かった、加世どの。……杏子の酒は初めてです、梶之助は生れて初めて、杏子の酒を口にしました。若しまたこれが欲しくなったら、必ず貴女の手作りを馳走になります」
「……冥加でござります」