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ちちぶきこう

知々夫紀行

幸田 露伴

「太陽」博文館、1899(明治32)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,784 字 · 31 页

青空文庫

現れ出でければ、そぞろに梁山泊の朱貴が酒亭も思い合わされて打笑まれぬ。

婦は我らを一目見て直ちに鎌を捨て、蝋燭、鍵などを主人の尼より受け取り、いざ来玉えと先立ちて行く。後に従いて先に見たる窟の口に到れば、女先ず鎖を開き燭を点して、よく心し玉えなどいい捨てて入る。背をかがめ身を窄めでは入ること叶わざるまで口は狭きに、行くては日の光の洩るる隙もなく真黒にして、まことに人の世の声も風も通わざるべきありさま、吾他が終に眠らん墓穴もかくやと思わるるにぞ、さすがに歩もはかばかしくは進まず。されど今さら入らずして已まん心もなければ、後れじものと従いて入るに、下ること二、三十歩にして窟の内やや広くなり、人々立ち行くことを得。婦燭を執りて窟壁の其処此処を示し、これは蓮花の岩なり、これは無明の滝、乳房の岩なりなどと所以なき名を告ぐ。この窟上下四方すべて滑らかにして堅き岩なれば、これらの名は皆その凸く張り出でたるところを似つかわしきものに擬えて、昔の法師らの呼びなせしものにて、窟の内に別に一々岩あるにはあらず。

道二つに岐れて左の方に入れば、頻都廬、賽河原、地蔵尊、見る目、ぐ鼻、三途川の姥石、白髭明神、恵比須、三宝荒神、大黒天、弁才天、十五童子などいうものあり。