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ちせいのかいがん

知性の開眼

宮本 百合子

「婦人画報」1939(昭和14)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,229 字 · 8 页

青空文庫

子供らへの心くばりをもおこたらぬ人間らしい個性が波々と湛えられていたことが感じられる。彼女の人間、女としての傷はそこで医され、科学者としての燃焼はそこから絶えざる焔をとったのであった。

知性は、コンパクトではないから、決して固定した型のものにきまったいくつかの要素がねり合わされていて、誰でもがハンド・バッグに入れていられるという種類のものではない。そのゆたかさにも、規模にも、要素の配合にも実に無限の変化があって、こまかく見ればその発動の運動法則というようなものにも一人一人みな独特な調子をもっているものだろう。とりどりな人間の味、ニュアンスと云われるものの源泉は、恐らくはこういう知性の微妙な動き、波動の重なるかげにあるように思える。

誰しもこの世の中に生れたとき、既にある境遇というものは持っている。それにつながった運命の大づかみな色合いというものも、周囲としては略想像することが出来る。西洋に、あれは銀の匙を口に入れて生れて来た人というような表現のあるのもそこのところに触れているのだろうが、人間が男にしろ女にしろ、生えたところから自分では終生動き得ない植物ではなくて、自主の力をもった一箇の人間であるという事実は、その境遇とか運命とかいうものに対しても、事情の許す最大の可能までは自分から働きかけることも出来る