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いしをのせたくるま
石をのせた車
小川 未明
「婦人之友」1921(大正10)年9月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 6,082 字 · 13 页
いうにいえない悲壮な感じが、このとき、少年の胸にわき上がりました。
「どんな、遠くへでも歩いていこう。」
少年は、おばあさんから聞いた温泉を思い出して心でいいました。
いよいよ夜が明けると太陽が笑いました。このとき、少年は、いままで大事にして握っていた石ころをつくづくとながめたのです。昨夜草原にねていて、空に輝いている星をながめたが、その星のかけらのように、美しく、紫色に光っている石でありました。
少年は、その石を持って町へ出ました。そして、ある飾り屋の前を通りかかりましたときに、その店さきにすわっていた主人にこの石を見てもらいました。主人は、眼鏡をかけて、よく石を見ていましたが、
「これは珍しい石だ。」といって、どうか売ってくれないかと頼みました。少年は、石よりもっと自分の命がたいせつだと、温泉行きのことを思って、主人に美しい紫色の石を売ってやりました。
「こんな珍しい石なら、いつでも買いますから、また、ありましたら持ってきてください。」と、飾り屋の主人はいいました。
少年は、その店から出て、往来に立ちましたときに、また、今夜も、あの坂の下に待っていて、もし、あの車がきたときに、後を押してやろうかなどと考えましたが、なんでも、いい機会というものは、二度あるものでない。