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いしべいゆうれい
石塀幽霊
大阪 圭吉
「新青年」1935(昭和10)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,907 字 · 26 页
要するに秋森家の家族というのは陰鬱で交際がなく、雄太郎君の考えに従えば、まるで世間から忘れられたように、この山の手の静かな丘の上に置き捨てられていたのだった。尤も時たま耳にした人の噂によれば、なんでもこの秋森家の主人というのはもう六十を越した老人で、家族と云えばこの老主人とまだ独身でいる二人の息子との三人で、これに中年の差配人とその妻の家政婦、並びに一二名の女中を加えたものがこの宏い屋敷の中で暮しているということだった。が、そんな報告をした人でさえ、その老主人と二人の息子を見たことはないと云っている。ところが、突然この秋森家を舞台にして、至極不可解きわまる奇怪な事件が持ちあがった。そしてふとしたことから雄太郎君は、身を以てその渦中に巻きこまれてしまったのだ。
それは蒸しかえるような真夏の或る日曜日のことだった。午後の二時半に、一寸した要件で国元への手紙を書き終えた雄太郎君は、恰度この時刻にきまっていつものように郵便屋が、アパートの前のポストへ第二回目の廻集に来ることを思い出して、アパートを出て行った。習慣というものは恐ろしいもので、雄太郎君の予想通り実直な老配達夫は、もうポストの前へ屈みこんで取出口にガチャガチャと鍵をあてがっていた。