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いしべいゆうれい

石塀幽霊

大阪 圭吉

「新青年」1935(昭和10)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,907 字 · 26 页

青空文庫

その道路の右側は秋森家の長い石塀だ。左側は某男爵邸の裏に当る同じような長い高い煉瓦塀だ。恐らく隠れ場所とてない一本道――。だが、犯人はいない!

犯人の代りに通りの向うから、一見何処かの外交員らしい洋服の男がたった一人、手に黒革のカバンを提げてやって来る。雄太郎君は馳けよると、すかさず訊ねた。

「いまこの道で、白い浴衣を着た二人の男に逢いませんでしたか?」

「………」男は呆気にとられ瞬間黙ったまま立竦んでいたが、意外にも、すぐに強く首を横に振りながら、

「そんな男は見ませんでした。……なにか、あったんですか?」

「そいつア困った」と雄太郎君は明かにどぎまぎしながら投げ出すように、「いま、この秋森さんの門前で人殺し……」

「なんですって!」男は見る見る顔色を変えて「人殺しですって! いったい、誰が殺られたんです?」と引返す雄太郎君に並んで馳けだしながら、とぎれとぎれに云った。

「私は、この秋森の差配人で、戸川弥市って者です」

けれどもすぐに石塀を折曲って秋森家の門前が見えると、二人はそのまま黙って馳け続けた。そして間もなく郵便屋に抱き起こされて胸の傷口へハンカチを押当られたままもうガックリなっている女を見ると、洋服の男は飛びかかるようにして、