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しゃかいじひょう

社会時評

戸坂 潤

「文藝春秋」1933(昭和8年)年6月~1937(昭和12)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,408 字 · 380 页

青空文庫

処が一旦就職すると仲々そうは云っていられないということが判って来る。だから就職して了ってからは、もうお説教しても間に合わない。就職の間際に良い心掛けを説教しておくのが一等効き目があるわけだ。

香坂府知事はそこで、三つの師範学校の卒業生四百六十八名を商工奨励館に集めて、集団的に辞令を交付する式を挙げることにした。之は辞令をなるべく出来るだけ厳粛に交付することによって、銘々の任務が並々ならず重大であるという気持を起こさせ、滅多には収賄も贈賄も出来ないぞという気にならせるためであるらしい。尤も香坂府知事自身が一時間も遅刻したことは、この厳粛な式の出鼻を挫いてケチをつけたわけだが、別にそう縁起を気にする必要もあるまい。

この試みは非常に時宜に適したものであることは間違いないが、併しこれで見ると一体小学校の先生達は、その筋から大いに期待をされているのか、それとも甚だ不安がられているのか、一向判らないという人がいるかも知れない。それは全くそうで、賄賂を授受しそうであればこそああ云った式も必要だったのだから、従っていくらああいう式を挙げて見た処で、先生達は矢張、いつか賄賂を授受しなければ立ち行かない客観的情勢に立ち到るだろう。