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しゃちょうひしょ

社長秘書

佐々木 邦

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1926(大正15)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,738 字 · 14 页

青空文庫

それに社長はもうお年の所為で頭の造作が多少傷んでいるから、物忘れをして同じことを幾度も話す。星野さんや塚本さんが又かと言ったような目つきを私に向ける時には、私こそ同情して貰う価値がある。私はもう四度も五度も聞かされているのである。

社長は漫遊中、某公爵と懇意になって、帰朝後も公爵を名誉総裁とするゴルフ倶楽部に入って交際を続けている。そこでこの公爵の逸話が頻繁に出る。

「アメリカから英国へ渡る時に船の中で初めてお目にかゝったのさ。公爵は百万石の殿様だけれど、平民主義で有名なお方だ。我輩の名刺を見て、『はゝあ、かねて承わって居りましたよ』と仰有ったには恐縮したね。実にさくい。君僕といった調子で、少しも高ぶらない。ところが或日甲板で面白いことがあったんだよ」

と社長はこの時相手の顔を打目戍るのを常とする。

「はゝあ」

と言えとの催促だから仕方がない。

「はゝあ」

「公爵は平民的と呼ばれるのが嬉しいと見えて、何でも対等にやる。我輩がポケットから煙草を出すと、卓上のマッチを取って擦りつけてくれる。これは恐縮だったね。その代り我輩も公爵が煙草を出すのを待っていてつけて差上げる。