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かみだな

神棚

豊島 与志雄

「新潮」1923(大正12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,427 字 · 44 页

青空文庫

――俺の方では、その事件の最中に、母に病気されて遂に死なれてしまい、ごたごたしてるうちに、年末に近づいてくるし、漸く深田印刷会社に一月の半ばから出ることになったが、生活の方が行きづまってしまったのだった。

笹木が松尾と共謀していたのだとすれば、俺の憤怒は当然笹木に対して燃え立たなければならない筈だのに、ただぶすぶすといぶるだけで、我ながら可笑しな心地だった。で俺は自分に対する皮肉な微笑を浮べながら、池部に尋ねかけていった。

「だが、そりゃただらしいというだけで、まだ確かな証拠が挙ってやしないじゃねえか。」

「挙ってるとも。素寒貧な笹木に降って湧いたように金が出来るというなあ、何より立派な証拠なんだ。内々調べてみるてえと、彼奴に前から金があったしるしも、誰からか金を引出したらしいしるしも、全くねえんだ。」

「じゃあどうしようというんだ?」

「君だったらどうする?」

池部はあべこべに尋ねかけて、俺の方へじりじりと顔を寄せてきた。もうちゃんと肚をきめていて、俺をその中に引張り込もうとしてるな、ということはよく分ったが、どうせ碌なことじゃあるまいと思って、俺はその押してくる力を平然と堪えてやった。