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かみだな
神棚
豊島 与志雄
「新潮」1923(大正12)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,427 字 · 44 页
祈って祈って祈りぬいてやるよ。命がけで祈ってやるから覚えておいで、……ああ大変、お灯明が消えてる……。」
彼女はまた例の無茶苦茶になりかけていた。いきなり立上って、神棚に蝋燭をつけて、その前に蹲った「天照る神ひるめの神……」それだけきり俺には聞き取れなかったが、非常に長たらしい訳の分らないことを、声には出さずに口の中で唱えだした。どうして彼女がその長い文句を覚えたかが、何よりも不思議だった。勿論母はいつもそれを唱えていたが、母の生きてる間、彼女は神棚に振向きもしなかったのである。
俺の覚えてる限りでは、母は――と云っても俺には義理の母で、お久の実母だったが――いつも命より神棚の方を大事にしてるかのようだった。毎朝必ず御飯や水を供え、晩には必ず灯明をつけ、月の一日と十五日には御神酒を上げ、いつも青々とした榊を絶やしたことがなく、そして朝晩に長い間礼拝した。そのくせ俺やお久が冷淡にしてるのを別に咎めもせず、却ってそれを喜んでるかとさえ思われるくらいで、誰にも指一本触れることを許さないで、稀代の宝物にでも対するように、自分一人で妬ましそうにその用をしていた。