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かみだな

神棚

豊島 与志雄

「新潮」1923(大正12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,427 字 · 44 页

青空文庫

「おい、もう止せよ」と俺は堪らなくなって云った。

彼女は返辞もしなかった。びくともしないで尻を落付けていた。

「止せったら……止さねえか!」

俺はいつにない手酷しい調子を浴せかけてやった。じっとしてると、息がつまりそうで額が汗ばんできた。然し彼女はいつまでも止そうとしなかった。俺は立上っていって、その肩を突っついてやった。

「今晩だけは止してくれ。もういいじゃねえか。」

彼女はぴたりと祈りの文句を途切らしたが、暫くすると、涙声で云い出した。

「いいえ止さないよ。今晩は本気で祈ってるんだから……。今迄いつも気紛れにやってたのが、空恐ろしくなってきた。……お前さんそう思わないの? やっぱり神様が守ってくれたからだよ。よく罰が当らなかったもんだ! 今晩こそ、心から……本気で……祈ってやる、夜明けまで祈ってやる!……お前さんもお祈りよ。」

彼女はまた訳の分らないことを唱えだした。梃でも動かないほどどっしりと尻を据えて、組み合せた両手を打震わせながら、腹の底から祈りをしているのだった。俺はその後ろに釘付になって、じっと神棚の灯明を眺めやった。眼の中が熱くなってきて、額からじりじり脂汗が流れそうな気持だった。