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しんけい

神経

織田 作之助

「文明 春季号」1946(昭和21)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,754 字 · 28 页

青空文庫

のトタン張りの壕舎にはじめて明るい電燈がついて、千日前の一角を煌々と照らしているとか、参ちゃんはどんな困苦に遭遇しても文化の糧である書籍を売ることをやめなかったとか、毒にも薬にもならぬ月並みな話を書いてお茶をにごしたのである。

そして、そんな話しか書けぬ自分に愛想がつきてしまった。私は元来実話や美談を好かない。歴史上の事実を挙げて、現代に照応させようとする態度や、こういう例があるといって、特殊な例を持ち出して、全体を押しはかろうとする型の文章や演説を毛嫌いする。ところが、私は「花屋」の話や参ちゃんの話を強調して、無理矢理に大阪の前途の明るさをほのめかすというバラック建のような文章を書いてしまったのだ。はっきり言えば、ものの一方しか見ぬリアリティのない文章なのだ。「花屋」の壕舎も「波屋」の軒店もただ明るいというだけでは済まされぬ。むしろ悲しい大阪の姿かも知れない。私はその悲しさを見て見ぬ振りした自分の美談製作気質にいや気がさしたのである。

それから四ヵ月がたち、浮浪者とインフレと闇市場の噂に昭和二十年が慌しく暮れて行き、奇妙な正月が来た。

三※日は一歩も外へ出なかった私も、三※日が済むと、はじめて外出し、三月振りに南へ出掛けた。