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しんけい
神経
織田 作之助
「文明 春季号」1946(昭和21)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,754 字 · 28 页
新機軸というものはむつかしい。世に新しいものはないのだろうか。声の芸術家たちは十年一日の古い紋切型の殻を脱け切れず、殻の中で畳の目を数えているような細かい上手下手にかまけているのであろう。しかしこれはただ声の芸術だけではない。美術、舞踊、文学、すべて御多分に洩れず、それぞれの紋切型があり、この型を逸れることはむつかしいのである。小説のような自由な形式の芸術でも、紋切型がある。ジェームスジョイスなどこの紋切型を破ろうとして大胆不敵な「ユリシイズ」を書いたが(「……」と彼は言った)などという月並みな文章がやはりはいっていて、何から何まで小説の約束から逸れるというわけには参らなかったようだ。詩人で劇作家で、作曲もしバンドの指揮もし、デザインをやるという奇術師のようなジャン・コクトオですら、小説を書けば極くあたり前の紋切型の小説を書いている。描写があり会話があり説明がありしめくくりがあり、ジャン・コクトオも小説となると滅茶苦茶な型破りは出来なかったのであろう。
人生もまたかくの如し。生きて行くにはいやが応でも社会の約束という紋切型を守って行かねばならない。