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しんけい

神経

織田 作之助

「文明 春季号」1946(昭和21)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,754 字 · 28 页

青空文庫

足で歩くのが紋切型でいやだといって、逆立ちして歩けば狂人扱いにされるのだ。極道をし尽したある老人がいつか私に、「私は沢山の女を知って来たが、女は何人変えても結局同じだ」といったことがある。「抱いてみれば、どの女の身体も同じで、性交なんて十年一日の如き古い型のくりかえしに過ぎない。変態といっても、人間が思いつく限りの変態などたかが知れていると見えて、やはり変態には変態の型がある」とその老人は語っていたが、数多くの女を知らない私にもその感想の味気なさは同感された。

人生百般すべて紋切型があるのだ。型があるのがいけないというわけではないが、紋切型がくりかえされると、またかと思ってうんざりすることはたしかである。ベルグソンは笑の要素の一つに「くりかえし」を挙げているが、たしかにくりかえされる紋切型は笑の対象になるだろう。滑稽である。レヴュの女優の科白廻しなども、軽佻浮薄めいているからいけないというのではない。私はジンメルの日記に「人は退屈か軽佻か二つのうちの一方に陥ることなくして、一方を避けることは出来ない」という言葉を見つけた時、これあるかなと快哉を叫んだくらいだから、軽佻を攻撃する気は毛頭持ち合わせていない。