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わたしのあったゴーリキイ

私の会ったゴーリキイ

宮本 百合子

「文学案内」1936(昭和11)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,457 字 · 11 页

青空文庫

であった。

ゴーリキイがイタリーからモスクワへついた時、あまりのまごころからの歓迎に感動して、暫くは挨拶の言葉も出ず、殆んど涙をおとすほどであったということは誰知らぬものもない。

モスクワはもちろん南ロシアの方までも巡遊した後、ゴーリキイはレーニングラードへやってきた。かれが宿ったヨーロッパ・ホテルにちょうど私も泊りあわせた。だいたい私は名士訪問ということはきらいであるが、このゴーリキイにだけは会ってみたかった。

そこで小さい紙片に下手なロシア語で、一人の日本婦人作家があなたに面会したいと思うが時間はあるだろうか、若し会ってくれるのなら都合のよい時間を教えてくれとかいてやった。ゴーリキイは簡単に明日九時頃に待っていると答えてよこした。

その時間に私はゴーリキイの宿っていた部屋の扉を叩いた。窓の二つあるさっぱりしたその室内には何も特別なものがなく、ただ私より先にきた誰かと話しながら食べて、そのままそこに忘れられているようなトーストが一ときれ皿にのってそこのテーブルにある、それが印象にのこった。

隣りの部屋から息子と一緒にゴーリキイが出てきた。実に背の高い肩幅のひろい年寄り。