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わたしはいんきょではない
私は隠居ではない
吉田 茂
「文藝春秋」文藝春秋新社、1962(昭和37)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,313 字 · 13 页
と云って帰って行きましたがね。
鳩山君と仲直りをさせようと、いろいろ間に立って心配してくれる人たちがあって、音羽の家へ訪ねたことがありましたよ。行って見ると、自動車が何台も止まっていて来客のある様子、何か用談らしいから帰ろうと云って帰りかけると、折角ここまで来たんだからちょっとと、無理に請ぜられましてね。入って見ると、鳩山君を中心に家の子郎党が居流れている。鳩山君が「ここここ」と云うんで隣へ坐って聞いてみると、鳩山君の口述を基に伝記編纂の会をやっているところで、今ちょうど、脳溢血で倒れたところまで来たところだと云うんだ。それで、うっかり、
「そのまま逝っちまってればおしまいで、もう出来上ってたわけだね」
と云いそうになってね。この時はあやうくこらえましたよ。
先年、平塚で乳牛の共進会がありましてね、陛下がお出でになったことがありましたよ。ホルスタインなんかの、日本にもこんな立派な牛がいるかというような奴が沢山並んでいてね、体中洗ってブラシをかけて蹄まで磨きたてているもんだから実に見事でした。ところが、その時に行幸を拝ませようということなんだろうが、土地の八十以上とかの老人たちが、茣蓙を敷いた上に並んでいるんだ。