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わたしもひとりのおんなとして

私も一人の女として

宮本 百合子

「婦人画報」1934(昭和9)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,244 字 · 7 页

青空文庫

私は、松本氏がああいうやりかたで自分の真情を吐露されたのは、それで松本氏の気がすみ、生きる力となったのなら、よいではないかと思います。栄子さんもそれを楽しみ、死ぬときも良人としての松本氏の俤を心に抱いて逝かれたとしたら、松本氏はまじり気なくあの当時の打撃によって、「自身の妻としての栄子」に対する何か特別な、何か心持を満す表現がほしかったのであろうと察せられます。只、私は、妻に対するそういう謂わば非常に感覚的な苦しい愛情の表現の形式として、松本氏が三々九度の盃というやり方をとられたところに、氏の生活形式の内に根づよくのこされている古風なもの、封建的なものを感じただけです。

愛情に対してそのようにこまやかな松本氏の性質と地位とが明らかとなった今日では、きっと多くの若い婦人の関心をひいているであろうから、或は却って将来松本氏にとっては幸福な結婚の可能性が増したことになっているかも知れません。

栄子さんに対してああいう風な形で熱情をうちかけたからと云って、これから松本氏が生涯を独身で送るであろうとか、そうあってこそ本当の純情だとか思う人があったら、私はそれこそ人間の心を安っぽくかたづけるロマンチシズムであると思います。