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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页

青空文庫

しかも人知れぬ天下への野望なのである。

不知哉丸

それも一ト目ぐらいは、成人ぶりなど、見たい気がどこかでしていないのではない。しかし、ひとから押しつけがましくすすめられると、逆に、むかついては来るし、またのめのめその子をつれて、この人目あまたな都へ出て来た藤夜叉へも腹が立つばかりだった。

「なにを、ご思案かの」

仲時は愍笑をふくんだ。

あいかわらず思考力の鈍な“ぶらり駒殿”とでも見ているらしい。

「すぐ二月も終る。いっそ月をこえた二日の夜、お待ちいたそう。どうだの、ご都合は」

それでも、高氏はまだ、答えなかった。迷いを顔に描いて、

「はあ。……?」

と、煮えきらず、ついには、

「いやお待ちください」

と眼をそらした。

子は二の次でも、藤夜叉には無性に会いたい。恋慕が身のうちを焦がし、ひさしく触れない白い肌を空想するだに苦しくなる。とはいえ、彼は今を、この千載一遇の日を、大望の緒と思わずにいられない。生涯の大きな賭はこれからなのだ。――彼女の女心では、草心尼や仲時にすがって、不知哉丸に初の父子の対面をさせ、じぶんの生んだ子を、高氏の嫡子と、確認させようとするのであろうが、時節でないし、憎むべき女の狡さだ。