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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页

青空文庫

土地にあかるい者の、案内まかせといたしておる」

「万一、荷駄強力などが、ご不足でしたら、いくらでも加役馳せ向わせます。ご遠慮なく、大安寺の方へ、お飛脚下さいますように」

大安寺とは。備前の豪族、松田左近将監重明のいるところの地名である。当時まだ、現在の岡山市は、ただ一帯の砂丘でしかなく、その西方の笹瀬川に沿った大安寺ノ里に、松田一族の富山城があった。

使いとして、これへ来たのは、松田重明の一子、権ノ頭五郎吉重で、用がすむと早々に、

「では、おいとまを」

と、辞しかける。

道誉もまた、

「重任の途中でなくば、一献さし上げるところだが」

とのみで、しいて、引きとめようとはしない。

佐々木の家臣は、松田権ノ頭がすぐ帰りそうなので、それを待っていたものだろう。――道誉が、客をおくり出して、元の座へ帰って来るとすぐ、

「殿。ひょんな者が、訪ねてまいりましたが」

と、兼好法師の訪れを彼に取次いだ。それは、彼にも意外だったに相違なく、

「浮かれ法師が。かかる所へ、今ごろ何しに」

と、舌打ちはしたものの、しかし、通せとは、すぐ言っていた。

「……これは、殿」

「ほ。兼好か」

「まことに、ごぶさたを」