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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页

青空文庫

まるで、家臣の不埒でもあるかのように、

「家来どもはいつまでも、そなたを昔どおりな、わが家の抱え田楽と思い誤っているらしい。それがつい、間違いの因」

ともいって、いたわり抜く。

白々しいとは憎みながらも、憎み切れぬ程なやさしさに、いつか、藤夜叉も、ややなだめられていた。その上、伊吹の昔ばなしだの、不知哉丸のことなどを、問い出されると、女ごころは、つい、恨みを、迷ぐらかされもする。

また。ここには酒もない。見えるのは、茶具、香炉、書架の書巻などであったから、何となく気もおちつき、道誉の人柄までが、これまでになく優雅に思えた。

やがて、灯を見たので、彼女が退がりかけると、

「いやまだ宵だ。せめて夜食を共にしてゆけ」

と、道誉はとめる。いつか自身で自身を持ち迷っているらしい。

昼には、酒が入っていた彼だ。それからの夜膳の酒に、道誉はまた、べつな美味さを追いはじめた。もう藤夜叉が、立とうとしても、立たすことではない態だった。

「もひとつ」

と、酌がせ、また彼女へも、

「なぜ、うけぬ」

と杯を強いて、夜が更けるなどは、意にもない。

こうなると、その酔眼には、女の美が、ただの女体としてのみ映ってくる。