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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页
けれど、これだけは、長年がどんなにも心をゆるしうる者たちだった。
ただ親心として、ここに欠けている顔が一つ気にかかる。それは六波羅の召しに応じて、否みようなく、幕軍の一隊として、中央へ出ている嫡子の太郎義高だけがいなかった。
「……それにしても、うかつであったよ」
長年は、一同への話をもどして、心の底のものを、つかみ出すように呟いた。
「よもや、まだかと、時機をはかっておるうちに、勅使はすでに、この里へお臨みなのだ。帝は沖のお船で吉左右をお待ちとある。……何ともあわただしいこととはなった。しかし、日ごろの申しあわせはみな忘れてはおるまいな」
「ご念にはおよびませぬ」
揃って言った声が、長年の耳をほがらかにした。朝の花明りは見るまに明るさをましている。
そのとき、小走りに廊へ見えた郎党が、勅使の忠顕と悪四郎の訪れを告げていた。
悪四郎の案内で、やがて勅使は名和家の大床へ通ってきた。
そこは水を打ったよう。
名和又太郎長年をはじめ、腹巻狩衣の一族は、一様にヒレ伏して、しばらく仰ぎ見もしない。
どこかの山桜が、朝風に身をゆすぶッていた。その白い斑がここにもヒラヒラと遊んでいる。