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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页
「記録所まで来ないか。――今日も各地からの応えが届いているにちがいない」
と、先に歩いた。
記録所には、行宮の智積寺の一坊が当てられている。たたみを上げ、ふすまを取り払い、そこの大床に千種忠顕が武将姿で床几に腰かけ、そして脚長な卓の上には、戦図や書類がいっぱいに拡げてあった。
「や、打揃うて」
忠顕は大容に三名を見て、
「何事だな?」
と言った。
この公卿はすでに近衛大将か何かのつもりでいるらしい。乾魚船の底にかがめていた背も、いまは尊大にかまえこんでいた。
かつは、後醍醐の御座をも、ここでは智積寺の行宮ふかくに奉じて、自己の伝奏によらねば、決して近づけさせることではなかった。はやくも禁門の制を布き、宮闕の威厳を復活させていたのである。
「さきに発せられた諸州へのお召しにたいし、今日も武士の応えが聞えておりましょうか」
「おおぞくぞく返牒がまいっておるぞ。これを見よ。いや読み聞かせよう、信濃坊も悪四郎泰長も聞くがいい」
すみに佇立していた僧兵が三名に床几を与えた。そのまに忠顕は一帖の“簿”を取り上げて、
「すべては大御稜威だな。それにいまの季節のようなもので、機運も熟して来たといえような。