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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

きいてみると、右馬介の頼みというのは、今夜、この古館の奥を一ト晩貸してほしい、というのであった。

「おやすいことです」

尼は言った。

おもてむき勘当とはいわれているが、右馬介と高氏の仲、右馬介のおびている密命など、尼も薄々は知っていた。否む理由はなにもなかった。

それにしろ右馬介のあらわれは、尼にも唐突に思われたし、またなんのために、この古館をつかうのかと怪しまれたが、やがて晩にはそれも解けた。

その夜、羅刹谷の一亭へ右馬介を訪ねてきた七、八名の侍がある。つまり密談の集合所にあてるためだったのだ。

しかも侍はみな、阿波の海賊岩松経家の部下で、なかには経家の実弟、岩松吉致もみえた。

この吉致は、かつて隠岐の島へ潜入して、後醍醐の脱出をたすけ、また綸旨をもたまわって、そのごは族党の宗家新田義貞へたいして、しきりに何かの画策をすすめていた者。

いま思うと。

千早の寄手に加わっていた新田義貞が「――病のために」と触れて、いつはやく自領上野ノ国へ引きあげ去ったのも、この吉致が、ひそかに彼を陣地に訪うていた結果と見られぬこともない。

また、それだけでなく、――吉致はなおこの上にどうしても、いちど足利殿(高氏)にお会いせねばならぬ、しかも緊急に――と言っている。