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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页
で、お受けのほかなく、今朝は高氏自身が、
「病を押して」
という前ぶれのもとに、執権のやかたへ伺候していたが、事はそのあとなのだった。
なんの発令も聞かない道誉の俄な出陣と聞いて、直義も意外な念にうたれていると、その一室へ師直が姿をみせて、彼一流の献策をささやいた。
「いやなに、道誉への不審なら、てまえ一存の儀に、おまかせくだされい。――出陣の列もつい今しがた、二階堂の門を出たばかりとか。追ッかけて、あの若入道を途にとらえ、腹をさぐってまいりまする」
昨今、鎌倉は軍都でしかない。しかし北条九代、とくに今の高時の代では、一面熟れきッた文化の府でもあった。
十橋の柳は老い、四境の内は、まるでこの世の浄土曼陀羅だった。ことしは閏で二月が二度かさなっていたから、いまの三月末は、例年の四月下旬の気候である。町の男女のあいだにはもう薄暑が蒸れ合い、白檀の唐扇を匂わす垂衣の女もあった。
「さぞ、見ものであろうよ」
と、辻々は見物人で賑わっていた。武者の出征や行列などは、ただの往来人のように見あきている鎌倉の住民なのだが、
「道誉どのが」
と聞くと、格別な興をそそられてくるのらしい。