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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

早く一献ずつでも祝ってあげろ」

「はいはい。ただいま」

白龍は、舟夫の手をかりて、二荷の酒桶をおろしていた。そして女のすべても連れて行って、砂丘のほとりに休んでいる将士に酒をすすめ廻った。或る者は、柄杓飲みに、或る者は土器で、たちまちそこもにぎやかな武者の声と嬌笑だった。

そのあいだを、師直は巧みにこなたでとらえていた。――先を急ぐ道誉の身の寸間をである。――道誉は屋形船の花見幕から体をあらわしたが、なぎさの浜に師直がひざまずいていたのを見、彼もそのまま船べりに腰かけた。

「師直」

「は」

「つまらぬ洒落だな。これが道誉への出陣祝いというつもりか」

「いささか御一興になろうかとぞんじまして」

「うそをつけ。そちはわしの腹を知りたいのだろう。女どもをつかってさぐりに来たのだ。わかっておる」

「さすがは御明察……」と、師直は悪びれもせず、その不遜な体躯をすこし崩して、

「まったくは、その通りです。何ゆえの俄な御発向か、主人のため、お伺いにまいりました。――このたび大命をうけた出陣の簿には、佐々木家のおん名はみえておりません。しかるに、第一番の御発向とは」

「そのことか。