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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页
「こころえました。……兄者」
「弟」
「ついに来ましたな」
「ああ!」
「では、さっそく、公に、表かたの家臣どもへ申し触れましょう」
「師直は」
「はや立帰るかとおもわれますが」
「どこへ行ったのか」
「じつは、出陣表の上に名もみえぬ佐々木道誉が、急に、一番となって発向いたしましたゆえ」
「さぐりにか」
「そうです。事ただならずと、師直も憂慮して、道誉の途中を待ち、這奴のこころを観て帰らんと申してまいりました」
「いらぬことだったな」
「そうでしょうか」
「佐々木のことは、殿中でも沙汰をきいた。たれが何を策し、どう動こうとも。……おおそれよりは、家中かたずをのんでいよう。はやく表へ申しわたしてやれ」
直義は兄をおいて、そこをさがった。兄高氏にも蔽いえないものが今日はみえるが、彼の方はもっと若い、またもっと正直に昂奮していた。家中二百六、七十人という数は厩仲間から若党、童の端までをいれた大蔵屋敷の総人員であった。それを邸内の馬出しの広場にあつめて、
「あす辰ノ刻発向だぞ」
と、公式に発表した。
しずかな布告だった。あらかじめ内々のしたくはすでにすすんでいたことがわかる。老臣、侍頭、旗奉行などから一言の答えを呈し、そしてそれぞれな長屋や武具倉へ別れ別れに群れをくずした。