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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

答えることもちゃんとしていた。行儀よく日頃の小暴君ともみえない。

「……似ている」

高氏はじっと見入る。藤夜叉の乙女のころとそっくりなのだ。ひよわそうな、どこか、神経質らしい眸だけは、まったくちがう。

「なんになりたい」

高氏がきいた。

「武者に」

と、答えてから、

「大将に」と、いい直し、

「弓も上手です」

と、訊かれもしないうちに、不知哉丸は自分から言った。

「ふ、ふ」

高氏はニコとしてみせた。

想像していたよりも、これはなかなかいい子だとおもったのである。すこし、おれの子だなという感じがわく。同時に、ひどくいじらしくなって来た。

座には、直義、右馬介、そして一色刑部もいた。刑部は、白い眉を皺めて、瞼に指をあて通しだった。いつか嗚咽すらもらしている。

こんな所へ、外陣の伝令があったのだった。

約束どおり、不知哉丸を質子として使者に渡せ――という高時の下状をたずさえた鎌倉の二使が、

「ただいま、矢作の御宿所に入られました」

と、聞えたのである。

高氏は、はっとした。なぜだろうか。柳営で高時から難題を出された日も、また出陣の朝、千寿王を質として残してきたときも、こうまで情愛のうろたえは覚えなかった。