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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页
なお彼の眼はぬかりなく、べつな見通しも持っていたようだ。――すなわち高氏と同時に、幕府から第四次の総大将に任命された名越尾張守高家の手勢は、まだ西へ越えてはいないことだった。
その名越軍は、高氏より数日おくれて、鎌倉を立つべき予定となっている。――とすれば、高氏がもし一戦覚悟で不破ノ柵へかかって来ても、たちまち背後からは、名越尾張守の軍勢が着く。高氏は自滅に落ちいる。
そうなれば、それは高氏に運のないこと。自分は、
「はやくも、足利のむほんを、その出ばなに討ったる者」
と、功を鎌倉にほこり、なおしばらく天下の情勢を見ていよう。道誉は、どっちにころんでも、不敗の陣ときめこんでいたのである。――ただ一つ、彼に誤算があったとすれば、それは、使者でもなくて、単刀直入に、高氏みずからが、これへ来たという意表外なことでしかない。
が、こうなればもう、その高氏との会見は、一高氏との会見ではない。生涯の運命も今日の対決できめねばなるまい。また彼との、十一年にわたる感情、いきさつ、一切の総決算でもある。そもそもの十一年前から今日まで、なお底知れぬあのうすあばたのことだ。