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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

そんなときの阿野廉子は、たとえば下世話でいう世話女房ぶりの実意を帝の看病につくして、ほかの二人の妃にも一切、手をかけさせないほどだった。

「そのご容態とあれば、一両日中には、岩松の使いの儀も、ご奏聞に入れられましょうか」

「吉事ですか」

「もとより宮方の吉報です」

「ならば、ご気分を伺って、わらわからそっと、ご内意を拝してみましょう。あすにでも」

彼女が立ち去るとすぐ、彼方の柵門の方から、一人の若い警固武者が、こっちへ駈けて来るのが見える。

「成田ではないか。あわただしげに何事だ」

「千種さま、ご要心を」

柵の武士、成田小三郎はこうまず告げた。

「ただいま甲ノ尾から、隠岐ノ判官殿がこれに見えますぞ」

「清高が」

「鎌倉からは、とうに帰っていたものですが」

「いらい顔も見せぬ彼が、前ぶれもなく?」

「何かただならぬ幕命をうけて帰ったらしいとのこと。それに別府の能登ノ介清秋も、甲ノ尾の館にあって、寄々一族の密議があったとも聞いています。ともあれ、お気をつけて」

「こころえた」

忠顕は飛びこむように、後ろの侍者の間へ、さっとかくれた。

成田小三郎というのは、地方(本土)からここの警固役に加わってきた島外武士のひとりなのだが、鎌倉の目的とは逆に、いつか後醍醐の侍者に説かれて、ひそかに、宮方への同心をちかっていた若者だった。