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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(四)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 页

青空文庫

使僧のことばには、少しも疑う余地はなかった。

だが、そんな程度で、すぐ疑いを解くような能登でもない。

「よろしい」

能登は、一応合点したが。

「それなら、そのおとどけ物が、みかどのお手許へわたればそれでよいのだろうが」

「いえ」

年下の使僧がいった。

「はるばる寺船を仕立てて渡島して来たことです。帝のお起居のさまも伺わずに、立ち帰りましてはどうも」

「それは御僧たちの勝手。こっちの知ったことではない」

「でも、師の頼源僧都から申しつかって来たおことづてもござりますれば」

「みかどへ、おことづてだと」

能登は耳をとがらせて。

「それも能登が取次いで進ぜる。ともあれ、黒木の御所へ通すことはできん。お帰んなさい」

「なりませぬか」

ぜひなげに使僧の二人は腰をあげた。そして携えて来た軽い包み物一箇を、彼の手に託してスゴスゴ引っ返したが、そのあとで、

「しまった」

能登は衝きあげられたように、急に馬へのって、使僧のあとを追ッかけて行き、その乗船の内を点検した。

寺船はもっぱら寺領輸送に使われるものなので、大きいのは見のがし得るとしても、船艙には必要以上な食糧がかくしてあった。