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あきふかき
秋深き
織田 作之助
「大阪文学」1942(昭和17)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,176 字 · 27 页
それに、えらい焼餅やきですの。私も嫉妬しますけど、あの人のは、もっとえげつないんです」
顔の筋肉一つ動かさずに言った。
妙な夫婦もあるものだ。こんな夫婦の子供はどんな風に育てられているのだろうと、思ったので、
「お子さんおありなんでしょう?」
と、訊くと、
「子供はあれしませんの。それで、こうやってこの温泉へ来てるんです。ここの温泉にはいると、子供が出来るて聞きましたので……」
あっ、と思った。なにが解消なもんかと、なにか莫迦にされているような気がした。
いつか狭霧が晴れ、川音が陽の光をふるわせて、伝わって来た。女のいかつい肩に陽の光がしきりに降り注いだ。男じみたいかり肩が一層石女を感じさせるようだと、見ていると、突然女は立ちすくんだ。
見ると隣室の男が橋を渡って来るのだった。向うでも見つけた。そして、いきなりくるりと身をひるがえして、逃げるように立ち去ってしまった。ひどくこせこせした歩き方だった。それがなにかあわれだった。
女は特徴のある眇眼を、ぱちぱちと痙攣させた。唇をぎゅっと歪めた。狼狽をかくそうとするさまがありありと見えた。それを見ると、私もまた、なんということもなしに狼狽した。