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あきふかき
秋深き
織田 作之助
「大阪文学」1942(昭和17)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,176 字 · 27 页
やがて女は帯の間へさしこんでいた手を抜いて、不意に私の肩を柔かく敲いた。
「私を尾行しているのんですわ。いつもああなんです。なにしろ、嫉妬深い男ですよって」
女はにこりともせずにそう言うと、ぎろりと眇眼をあげて穴のあくほど私を見凝めた。
私は女より一足先に宿に帰り、湯殿へ行った。すると、いつの間に帰っていたのか、隣室の男がさきに湯殿にはいっていた。
ごろりとタイルの上に仰向けに寝そべっていたが、私の顔を見ると、やあ、と妙に威勢のある声とともに立ち上った。
そして、私のあとから湯槽へはいって来て、
「ひょっとしたら、ここへ来やはるやろ思てました」
と、ひどく真面目な表情で言った。それでは、ここで私を待ち伏せていたのかと、返事の仕様もなく、湯のなかでふわりふわりからだを浮かせていると、いきなり腕を掴まれた。
「彼女はなんぞ僕の悪ぐち言うてましたやろ?」
案外にきつい口調だった。けれど、彼女という言い方にはなにか軽薄な調子があった。
「いや、べつに……」
「嘘言いなはれ。隠したかてあきまへんぜ。僕のことでなんぞ聴きはりましたやろ。違いまっか。僕のにらんだ眼にくるいはおまっか。