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しゅうふうふき

秋風不帰

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,593 字 · 28 页

青空文庫

「拙者の眼違いかも知れぬが、さっき欣弥と一緒に来ていたのは、若林の妹ではないか」

「……そうだ」

吉郎兵衛は眼を外そうとした。

「矢張り、そうだったのか、……まさかという気もしたが、……そうか」

「しかし狩谷、これは他に仕様のない……」

「いや分ってる!」

夏雄は、さすがに寂しさを隠しきれぬ調子で遮った。

「考えてみれば当然だ、拙者はこういう身上になったのだから、もう約束を果すことは出来ないし、許嫁を反古にしなければ若林兄弟も安全ではいられないだろう、……だが、なんだか拙者は、待っていてくれそうな気がした」

「……分るよ、狩谷」

「善之助とは莫逆だったし、……あの女の気持も多少は知っていたと思った、……それで少し意外だったのだ、殊に相手が……小野国老の伜とは」

吉郎兵衛は答える言葉に窮した。

「愚痴だな、はははは」

夏雄は空しく笑って、

「しかしここへ来たお蔭で知ることが出来た。知らずに会ったら善之助を困らせることになったろう、拙者もこれで身が軽くなったよ」

そう云って静かに障子をあけた。

隣屋敷から、さびのある声で「鉢の木」を謡いだすのが聞えた。……夏雄は庭に下り、よろっとしたかたちのまま、棒を呑んだようにそこへ立ち竦んだ。