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しゅうふうふき
秋風不帰
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1939(昭和14)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,593 字 · 28 页
七
「この手紙を御覧下さいまし」
と吉郎兵衛からの封書を差し出した。
夏雄はこの隠れ家を、下郎などに教えた吉郎兵衛の仕方が軽々しく思えたが、書面を披いてみると走り書きで、
――銀之丞を、月昌寺門前の茶店まで連れ出してあるから、直ぐ来るように、この使いは自分の召使う下郎で心配のない者だ。――
ということが認めてあった。
「よし、直ぐに参る」
「御一緒に、御案内を致しまする。その方が却って人眼につかぬでございましょうと、蓑と笠を持参仕りました」
「それは忝い、では」
夏雄はすぐ支度にかかった。
お高は黙って支度を手伝ったが、その顔は血気をなくしていたし、手は微かに顫えていた。夏雄は旅嚢の中から金袋を取出して渡しながら、
「ここに僅かだが金がある。今夜のうちには戻って来るつもりだが、万一の場合にはこの金で身の立つように、馬子をするほどの覚悟があるのだから身一つの始末は出来るだろう」
「……はい」
「むろん、帰って来られると思うが、明日の午になっても戻らなかったら立退け、いいか」
お高は主人の眼を見詰めたまま頷いた。
夏雄は蓑を着、笠を取って家を出た。
七
ひたひたと雨のなかを急いで、月昌寺の森を裏門へかかろうとした時である。