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しゅうふうふき

秋風不帰

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,593 字 · 28 页

青空文庫

「早まった、お町どの、どうしてこんな」

「いいえ、いいえ、町はもう、欣弥の許へ嫁ぐとき死んでいたのでございます、ただ、今日まで、この仔細をあなたさまにお伝え申したいため、ただそのために屍を保っていたのです。……夏雄さま、お父上の敵は申上げたお二人、いま寺内に、家中の者十三名と待伏せている筈です、どうぞ……おぬかりなく」

温かい血が、夏雄の手を伝って流れた。

「町子、忝いぞ」

夏雄は耳へ口を寄せて云った。

「危く罠にかかるところ、そなたのお蔭で助かった。父上と兄の仇はそなたのためにも敵だ、……必ず討って取るぞ」

「御……御武運、めでたく」

懐剣を放した手を、夏雄の胸へさし伸ばそうとしたまま町子は絶息した。

夏雄は暫くそのまま屍を掻き抱いていた。

良人と決めた者のために、秘密の根を探るべく若い命を捨てて敵の手に身を投げ出し、いまその責を果して帰するが如く自害した、そのひとすじの真心が、死顔の上にも神のような清浄さを表わしている、哀れというには、あまりに満ち足りた表情であった。

夏雄はやがて屍を抱きあげた。

樹間の向うに観音堂がある、そこへ運んで行って扉をあけ、堂の中へ静かに横たえた。