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かがくとぶんがく
科学と文学
寺田 寅彦
「世界文学講座」1933(昭和8)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,562 字 · 50 页
ようなものが眼前に揺曳するように感ぜられるのである。
もしも、人間の思惟の方則とでも名づけらるべきものがあるとすれば、それはどんなものであろうか。こういう、ほとんど無意義に近い漠然とした疑問に対して、何かしら答えなければならないとしたら、自分はそこにまず上記の微分方程式のことを思い出させるのも一つの道ではないかと思うのである。
まず、最も簡単な例を取って気温と人間の感覚との関係を考えてみる。他の気象要素の条件が全部同一であるとしても、人のある瞬間の感覚は単にその瞬間の気温だけでは決定しない。その温度が上がりつつあるか下がりつつあるか、いかなる速度で上がりまた下がりつつあるか、その速度が恒同であるか、変化しているとすればどう変化しているか、そういう変化の時間的割合いかんによって感覚は多種多様になるであろう、それでもしも温度に関する感覚が若干の変数の数値で代表されうるとすれば、これらと気温との関係は若干の微分方程式で与えられ、そうして、それが人間の気温に対する感覚の方則を与えるであろう。しかし実際の事がらは決してこのように簡単ではなくて、人々の感覚は気温と共存する湿度、気圧風速日照等によるのみならず、人々のその瞬間以前におけるありとあらゆる物理的生理的心理的経験の総合された無限に多元的な複合の無限な変化によって