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かがくとぶんがく
科学と文学
寺田 寅彦
「世界文学講座」1933(昭和8)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,562 字 · 50 页
のものである。宝捜しの案内記のようなものである。一方で、科学者の発見の径路を忠実に記録した論文などには往々探偵小説の上乗なるものよりもさらにいっそう探偵小説的なものがあるのである。実際科学者はみんな名探偵でなければならない。そうして凡庸な探偵はいつも見当ちがいの所へばかり目をつけて、肝心な罪人を取り逃がしている、その間に名探偵は、いろいろなデマやカムフラージに迷わされず、確実な実証の連鎖をじりじりとたぐって、運命の神自身のように一歩一歩目的に迫進するのである。しかし実際の探偵小説がそれほどに必然的な実証の連鎖を示しているかというと、そうではなくて、たいていの場合には、巧みにそうらしく見せているだけで、実は大きな穴だらけのものがはなはだ多い。換言すれば、実験は実験でも、ごまかしの実験である場合がはなはだ多い。これは無理に変わった趣向を求める結果、自然にそういう無理を生ずる可能性が多くなるものと思われる。しかし読者が容易にその穴に気がつかなければ、少なくも一時は目的が達しられる。つまり読者の錯覚、認識不足を利用して読者を魅了すればよいので、この点奇術や魔術と同様である。