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かがくのげんかい

科学の限界

中谷 宇吉郎

「心」平凡社、1958(昭和33)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,657 字 · 18 页

青空文庫

今世紀にはいってからの科学の進歩には、まことに目ざましいものがあった。とくにこの十年以来、その進歩は、一大飛躍をなし、原子力の開放、人工衛星の打ち揚げなど、人類の歴史の上に、金字塔として残る幾多の事業を為しとげた。

こういう華々しい科学の成果に幻惑された人々の中には、あたかも科学を万能のものとする考え方が、次第に一つの風潮となりつつある。そして科学がさらに数段の進歩をすれば、人間のいろいろな問題が、全部科学によって解決される日が来るかの如き錯覚に陥っている人もあるようである。宇宙時代というような言葉が流行し、それが何か人間を変えることのように思われているのも、その一つの現われである。月や火星の景色を見たり、其処にある資源が利用できる日が来ても、それは百年前に、北極や南極へ行ける日を夢見ていたのと、同じことである。今日では、北極へも南極へも、飛行機ならば、文明圏から、十数時間で行ける。しかしその時代でも、人間は、相変らず、戦争や貧困におびえている。

科学が非常に強力なものであることには、誰も異論はない。しかしそれは、科学の処理し得る問題の範囲内での話である。