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かがくしゃとよみせしょうにん

科学者と夜店商人

海野 十三

「科学画報」1929(昭和4)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,858 字 · 8 页

青空文庫

すると又ヒョクリと浮かび上がって来るのであった。その男の言うところによると、これは生きている烏ではなく、鵜烏の模型なのだそうである。ただ或る仕掛けによって斯くは不思議な運動をするのだそうである。科学者はその仕掛けについて質問したがその男は、それを話しては商売にならぬから、説明書を金十銭で買えと薦めた。しかし科学者は、科学者たるの名誉を以てそれを拒絶すると同時に、バケツの前にしゃがみこんで考えた。

或る物体が液面に浮かび出、又沈むというのは明かに浮力の作用である。見たところ液体は一定の密度を持っているらしいから浮力の計算式は、非常に簡単になる。浮いているものが沈むためには、どうしても外力が働かねばならない。外力は普通の場合、重力と気圧とに限られている。気圧が増大すると空気が圧縮せられて浮体自身の浮力が減少し、沈降を始めるわけだが、これは開放されたる大気中に在るのだから、そんなに気圧が変動する筈はない。それに鵜烏は浮かんでいるかと思うと、忽ちサッと姿を没するほど運動は急激に行われるから、そのためには気圧は一瞬間に何十粍という急角度の変動を必要とする。