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かがくしゃとよみせしょうにん
科学者と夜店商人
海野 十三
「科学画報」1929(昭和4)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,858 字 · 8 页
科学者は彼の予想のはずれたことを悲しんでしばらくは死んだようになっていた。
しかし兎も角も実験だけはして見ようと思って泥鰌を一匹買って来て、説明書の通りにセルロイドの鵜烏に糸を以て接続し、澄明なる水をたたえた大きいビーカーの中で実験をして見たところ、泥鰌は底に安定して居ず、いつも水中を上へ上ったり宙返りをして下りてきたりする不思議な運動をくりかえすことを発見した。そこへ梯子段をミシミシいわせて上って来た下宿の女将が頓狂な声を張りあげた。
「先生は、鵜烏の水くぐりを夜店でお売りになるのですか」
「ソ、そうじゃない。之を御覧、不思議な総合現象だ。全く新しい実験だ」
「いやですよ、先生。こんなものは、もう三年も前からありますよ、先生」
「……」
女将がズシリズシリと階下へ降りて行ってしまうと、科学者は深い歎息をして、独り言を言った。
「物理や化学をやっている科学者には、生物学なんてニガテだな」