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ほどよいひと
程よい人
豊島 与志雄
「女性線」1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,328 字 · 21 页
甚だ通俗的でみみっちいと言えばそれまでだが、言い換えれば破目をはずすことがなかったのだ。
一方では、私の借金政策はうまくいった。返済期日を厳守したため、借金をしながら却って信用を得たとも言える。黒川は私に対してやはり誠実で、いろいろ指導してくれたりした。最初に少しく無理算段しただけで、黒川の手に託されてる私の資金は次第に殖えてゆき、入用な小遣はいつでも引き出せるようになった。使うことばかり急いではいかん、と黒川は私をたしなめた。
万事が調子よく進んでいった。私は至極安泰だった。大望や野心がなかったからだ。そして自分の分を守って中道を歩いたからだ。私は全くのところ程好い人間なのである。そして程好い生き方をしたのである。程好い人間が程好い生き方をするのは、何の悪いことがあるか。
ところが、おかしなことが起ってきた。
黒川のところには、以前の仕事の関係上、いろいろな闇物資が持ち込まれることがあった。それが時価よりは遙に安いのである。その中で、靴下とかシャツとかいう日用品の、而も数量の半端なのを、私は時折、譲り受けることにしていた。妹にも少し買ってやった。