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ちごほうし
稚子法師
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1924(大正13)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,609 字 · 16 页
とまれ普通の仲では無かった。
やがて洗馬も駈け抜けた。
其時、行手の闇を裂いて、雲か煙か三条の柱が、ぐるぐる巻き乍ら走って来た。
「主水!」――と途端に呼ぶ声がする。主水は礑と馬を止めた。と彼の前に立ったのは白衣の直垂、白糸縅の鎧、白い烏帽子を後様に戴き、白柄の薙刀を抱い込んで白馬に跨がった白髪の武人――蘇門山村良由と、同じ扮装いに出で立った孫兵衛、右門の三人であった。
「殿、何方へ参られます?」
恐る恐る主水は訊いた。
「八万億劫の地獄へ参る」
「何用あって参られます?」
「閻羅王、祐筆を求めるに依ってな――」
「私もお供致しましょう」
「今はならぬ、やがて参れ――そこでお前に頼みがある。馬を二頭送ってくれい〈山風〉と〈野風〉の二頭をな」
「かしこまりましてござります」――斯う云うと主水は頭を下げたが其時、鎧の音がした。
眼を上げて見ると人影は無く、深い木曽川の谷の上を、ぐるぐるぐるぐるぐる廻わりながら、霧で出来たような三本の柱が、対岸を指して飛んで行ったが、それも間も無く見えなくなった。
「深い縁があればこそ、お眼にもかかれお言葉をも賜わったのだ」
嬉しさと悲さをコキ雑ぜた複雑の思いに浸り乍ら彼は合掌したのであった。