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ちごほうし
稚子法師
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1924(大正13)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,609 字 · 16 页
彼は不図悟入したのであった。
「負けて裸で襦袢で寝たら、襦袢みじこう夜は永う」
斯ういう農夫の唄を聞いて、俄に武士を捨てた。萩原主水が、奈良井の百姓になってから既に五年の月日が経った。所の郷士千村家からお信乃という格好の妻も迎え、今年三才になる男の子まで儲けて、気安い身分となっていた。
程近い福島の城下からは武士時代の朋輩も訪ねて来るし、近所の農家からは四季折々の配物などを貰いもするし、それに女房の実家というのが近郷第一の富豪ではあり、生活には不自由しなかった。美しい男振に想を懸け、進んで嫁いで来たお信乃であるから、彼への貞節は云う迄も無い。子供の松太郎も美しく生い立ち、前途の憂などは更に無かった。
しかし此儘彼の生活が平穏無事に過ぎ行くとしたら物語に綴る必要は無い。果然意外の災難が彼の一家に降って湧いた。
「近頃不思議の人攫いが徘徊するということだ」―「五才迄の子を攫って行くそうだ」
斯ういう噂の立ったのは夏も終りの八月のことで、噂は噂だけに止どまらず、実際幾人かの五才迄の子供が数々行衛が不明になった。
「夜は早く戸閉りをして、松太郎を外へ出さぬようにせよ」