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いねのいちにち

稲の一日

中谷 宇吉郎

「世界」1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,013 字 · 20 页

青空文庫

ソ連がシベリアで小麦を栽培するためには、あのシベリアの曠野を吹く強風に耐えるような丈夫な桿の小麦を作るのに、大分苦心したということである。稲の場合にもそういうことがあるにちがいない。

ところが人工米工業では、それ等の点についてはあまり考慮を払う必要がないので、ただ無闇と沢山穫れるような品種を作ればよいであろう。いわば一種の片輪を作ればよいのである。稲の背が低くて穂だけが長く、それに籾がいっぱいついて、いわばヒヤシンスのような感じの稲を作るように努力すればよいことになる。それでも倒れるような心配は無いので、必要とあらば、新宿御苑の菊のように、花の一つ一つに針金の受け台を作る塩梅に、適当に支持してやればよい。それも何もむつかしいことをする必要は無いので、例えば適当な高さのところに針金の網を水平に張って、その目の一つ一つから穂を出させてやるくらいで充分であろう。

其処まで行けば、稲は試験管となり、その中で葉緑素の触媒が炭酸ガスと水とからどんどん澱粉を作ってくれることになる。試験管の形は、取扱いに便利なように勝手な形に作ればよいのであるから、稲もせいぜい片輪の稲を作るべく努力することである。