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いねのいちにち

稲の一日

中谷 宇吉郎

「世界」1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,013 字 · 20 页

青空文庫

稲を試験管にしてしまっては可哀想であるが、人間を機械の歯車の一つにするような近代工業のことを思えば、それくらいのことは仕方がない。何十年自動車製造会社に勤めていて、その何十年を後輪の何番目かのナットだけ締めて暮してきたというような職工にくらべたら、稲も充分我慢出来るであろう。

もっともこの人工米を喰う人間も、あまり威張るわけにはゆかない。澱粉だけでは身体がもたないから、蛋白やビタミンは他から補給する必要がある。柿の葉や雑草や魚の腸から採ったビタミンをのみ、魚粉の蛋白質を摂取する必要が出て来るであろう。炭酸ガスと水とから出来た澱粉を喰い、妙な粉を少し嘗めて、それで元気で働けるようになったら、有難いことでもあり、情けないことでもある。

それよりもこの人工米工業で、全面的に食糧問題が解決したら、第一番に出て来るのは、農民救済の問題である。全国の非農家が全部自分の家に八畳くらいの米作室を持って、それで米はもう要らないと言い出したら、これは大問題である。それで取りあえずは、全国で一千万石くらいだけ作ることを許可するようにした方が良さそうである。所要電力の計算は実験がすんでからでないと、確かな数字は出せないが、全国で一千万石くらいならば、電力の供給も出来そうである。