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ほたかだけびょうぶいわにて
穂高岳屏風岩にて
早川 鮎子
「岳人 二六五号」東京新聞出版局、1969(昭和44)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,194 字 · 7 页
月が岩かげを作った。
横尾の河原にポツンと火がともった。
多分、Sたちのたく火であろう。
ここは屏風岩緑ルートにある通称一坪テラスの一角である。仲間はH山岳会のN。きょう二人がマキ小舎を出たのは熟しきった夏が河原をムンムンとさせている頃だった。
私にしては大きい登攀かもしれないのに、寝すごしてしまう自分になにか中途半端なものうさを身体全体で感じていた。
T4で大スラブルートへゆくという大阪の人たちを見送った。登ることに決めてありながら寝坊をした惰性が、そのまま動作を鈍くしていた。やっと腰をあげた時は、太陽はもう半分ほど一日の仕事を終えようとしていた。
三ピッチ目のピナクルをまわる――三年ほど前、初めて、屏風岩の雲稜ルートをのぼった時のことが思い出された。いまはトップで、あの時はひきずられるようにしてそれでも気負ってのぼった。――
扇岩で食事にする。「オーイ」、T4におきざりにした余分な荷物をとりにきてくれたSたちである。扇岩の上にのって手を振る。
大股で歩き去る陽とともに何故かこの場から去りたいような気持と、それとは逆に時間をあと戻りさせたい気持、そんなものには関係なく陽は大分かたむいていた。