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あきや

空家

宮崎 湖処子

「国民之友」1889(明治24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,554 字 · 30 页

青空文庫

ものなかりしなり、さてはと身を起して闇を捜りたれど、阿園はいずこにもいず、ただ裏の戸明け放しありて、向いの空ほのぼのと明けゆく模様なりしなり、佐太郎は愕とせり、彼はそのままソッと戸を締め、夜明けぬ間に己が家に忍び走れり、

下

古門村の後には、村と同名の山脈連なり、峰は高きにあらずといえども、満山隠然として喬木茂り、麓には清泉灑げる、村の最奥の家一軒その趾に立ちて流れには唐碓かけたる、これぞ佐太郎が住居なりき、彼は今朝未明に帰り来たり、夜明けたれど外にも出でず、残暑焔ゆるがごとき炉の傍に、終日屹坐して思いに沈みぬ、その日の夕、にわかに戸を敲くものありき、彼は愕として飛び立ちしが気を静めておそるおそる戸を明けしに、その友の一人なる壮年なりき、突然とし彼は曰えり、「佐太郎和主も来たり見よげに希代のものを捜し出せり、疾く疾く疾く来よ」

佐太郎は思い当るところあれば青くなり、心には拝むようにして外に出るを拒みたるも、今にして止むべきにあらざれば、彼は牢に牽かるる罪人のごとく悄々と随いゆきぬ、常にはほかに訪う人なかりし寡婦が住居の周囲に、今はほとんど人の山を築けり、彼らは今来たる